chigiri vol.195 株式会社山十建材 代表取締役 村松雅通さん
材木一本から、人と地域をつなぐ。
社員と育む、山十建材の新しいかたち。
株式会社山十建材 代表取締役 村松雅通さん
住宅着工戸数の減少や資材価格の高騰、職人不足など、建設業界を取り巻く環境は大きな転換期を迎えている。家づくりの現場では、多様なニーズへの対応が求められる一方で、地域工務店を支える建材店にも、これまで以上の柔軟性と提案力が必要とされるようになった。また近年では、DIYブームやリノベーションへの関心の高まりを背景に、一般消費者が建材に触れる機会も増え、建材店の役割そのものが変わりつつあるようだ。
豊橋市東幸町。二川方面から県道386号線を豊橋市街地へ向かって車を走らせると、大きな倉庫の壁面に描かれた「山十建材」の文字が目に飛び込んでくる。この道を利用する人なら、一度は目にしたことがあるのではないだろうか。昭和20年、製材業として創業した山十は、丸太から建築材を切り出す仕事を原点に歩みを重ね、現在では木材や住宅建材の卸売をはじめ、内外装工事、吹付断熱、防水工事、家具製作まで幅広く手掛ける住まいの総合パートナーへと進化してきた。地域の工務店や大工に木材一本から対応し、住宅の困りごとにも柔軟に応える企業として、東三河の住まいづくりを支えている。
「昔はプロしか来ない会社でした。でも今は、もっと地域の皆さんにも気軽に立ち寄ってもらえる会社にしたいと思っています」。そう話すのは、四代目代表取締役の村松雅通さん。日に焼けた精悍な風貌とは対照的に、取材中は冗談を交えながら笑顔で話し、場の空気を和ませてくれた。その気さくで人懐っこい人柄は、初対面ということを忘れてしまうほど。近年は、少し傷が付いた建材や余剰在庫を買い付け、自社で加工・再生したアウトレット商品の販売にも力を入れている。プロの現場では使いづらい材料も、DIYを楽しむ人たちに人気を集め、一般客も多く訪れるという。
その象徴ともいえるのが、昨年から社員主体で始まった「山十祭」だ。木工体験や包丁研ぎ、自然塗料の体験、お値打ち品の販売など、建材店ならではの催しが並び、家族連れで賑わう地域イベントへと成長しつつある。交通量の多い道路沿いで、多くの人がその存在を目にしてきた一方、『中に入る機会がなかった』という地域の声も少なくない。だからこそ、「まずは会社へ入ってみてほしい」。そんな社員たちの想いが、このイベントには込められている。包丁を研ぐ現役の大工へ住まいの相談をしたり、木材に触れながらものづくりの楽しさを知ったり——。建材を売る会社から、地域と人をつなぐ会社へ。その姿は、少しずつ形になり始めている。
「会社を変えてきたのは私ではありません。社員みんなが『もっと面白いことをやりたい』『地域の役に立ちたい』と動いてくれた結果なんです」。そう穏やかに語る村松さん。その言葉の根底には、家業に入る前、飲食業界で”人が集まる店づくり”や組織づくりを肌で学んだ経験も息づいている。しかし、それを今、形にしているのは社員一人ひとりの主体性だという。創業から80年。製材業から建材卸へ、そして住まい全般を支える企業へと進化してきた山十建材。その原動力は、人を信じ、挑戦を後押しする企業風土にある。地域に開かれた建材店という新しい価値は、今日も社員たちの手によって育まれている。

▲山十建材 倉庫外観
遠回りしたからこそ、見えてきた。
人が集まる会社づくりの原点。
———高校卒業後、父から半ば勘当同然で家を追い出され、東京へ。飲食業界で急成長する企業の熱量を肌で感じ、多くの経験を積みました。しかし、その先に思い描いていた未来とは少し違っていました。回り道のように見えた時間は、今振り返れば、経営者として最も大切なことを教えてくれた時間だったのだと思います。
父に背中を押され、飛び込んだ東京
高校時代は居酒屋でアルバイトをしていて、お客様と接する仕事が本当に楽しく「将来は飲食の道へ進みたい」と思っていました。当時はドラマや映画の影響もあって、バーテンダーに憧れていたんです。卒業後、「このまま豊橋にいても変われない」と父に背中を押されるような形で東京へ。当時は勘当されたと思っていました(笑)。
入社したのは、まだ数店舗しかなかった築地銀だこを運営する会社です。店舗が次々と増え、朝から行列ができるようになる様子を間近で見ながら、店舗運営や人材育成に携わりました。夜遅くまで続く会議では、「もっと良くしよう」と本気で議論を重ねる毎日。その熱量や人づくり、お客様に喜んでもらうために考え続ける姿勢は、今の会社経営にも大きく影響しています。扱う商品は違っても、商売の本質は同じなんだと感じています。
挫折が導いた家業
もっと地域のお客様に寄り添う店づくりがしたいと思い、大阪の会社へ挑戦しましたが、面接へ行ったその日に不採用でした。正直、かなり落ち込みましたね。
豊橋へ戻り、実家を少し手伝ったことが家業へ入るきっかけです。父とは昔から考え方が違い、衝突することも多かったのですが、入社から二年ほど経った頃、「社長を代わるぞ」と言われたと思ったら、父は世界を巡る旅へ。「あとは任せた」と言わんばかりに会社を離れたんです(笑)。だから自分で決断し、自分で責任を負うしかなかった。あの一年があったから今があります。帰国後も父はほとんど口を出さず、黙って見守ってくれました。今では感謝しかありません。
主役は、社員たち
今の山十建材は、建材販売だけではなく、アウトレット販売や山十祭、家具づくりなど、仕事の幅が大きく広がりました。でも、それは私の力ではありません。社員たちが「もっと会社を知ってもらいたい」「こんなことをやってみたい」と自分たちで考え、行動してくれた結果なんです。SNSもイベントも、私より詳しい社員が引っ張ってくれています。私は背中を押すくらいで十分なんです。
父に家を追い出された当時は「なんで!?」と思っていました。でも、あの経験があったから、多くの人と出会い、今の自分があります。遠回りも失敗も、すべて意味がありました。だから社員にも失敗を恐れず挑戦してほしい。会社はみんなで育てるもの。これからも地域の皆さんに気軽に立ち寄ってもらえる「面白い会社」であり続けたいです。

株式会社 山十建材
豊橋市東幸町字東明12-1
TEL:0532-62-2025
山十建材WEBサイト
むらまつ・まさみち さん プロフィール
1977年、豊橋生まれ。豊橋市立東部中学校、愛知県立豊橋工業高等学校(現:愛知県立豊橋工科高等学校)を卒業後、勘当同然で家を追い出され、当てもなく上京。いくつかの飲食店を転々とした後、創業間のない『築地銀だこ』を運営する株式会社ホットランドへ入社。他店舗を統括する店長、焼き鳥専門の別業態の「やきとりのほっと屋」の運営を任される。2007年、株式会社 山十建材入社。2009年、代表取締役に就任。現在は、社員一人ひとりが活躍する会社を目指し、精力的に邁進している。

▲素材のアウトレット販売
見て、触れて楽しめる!!「山十祭」開催!!
8月8日(土) 9:00〜15:00 本社敷地内
建材のアウトレット販売をはじめ、包丁研ぎや木工体験、自然塗料体験など、住まいやものづくりを身近に感じられる催しを開催。子どもから大人まで楽しめる、山十建材ならではのイベントです。