chigiri vol.194 株式会社お亀堂 代表取締役 森 貴比古さん

chigiri vol.194 株式会社お亀堂 代表取締役 森 貴比古さん
Chigiri vol.194

和菓子で東三河をもっと面白く。
老舗の暖簾を守りながら、新しい文化を生み出す。

株式会社お亀堂 代表取締役 森 貴比古さん

 洋菓子やコンビニスイーツが身近になり、人々の暮らしや価値観も大きく変化した昨今。お祝い事や季節の行事、手土産など、かつて日常の中にあった和菓子を口にする機会は少しずつ減り、全国の和菓子店を取り巻く環境も厳しさを増しているようだ。長年地域で親しまれてきた店が暖簾を下ろす一方で、伝統を守りながら新たな価値を生み出そうと挑戦を続ける店もある。

 南小池に本社を構えるお亀堂も、その一つだ。創業1950年。看板商品のあん巻きをはじめ、季節の生菓子や赤飯などを通じて、地域の節目や暮らしに寄り添ってきた。近年では、有楽製菓とのコラボレーションによって誕生した「ブラックサンダーあん巻き」が全国的な話題を集めるなど、これまでの和菓子店のイメージにとらわれない取り組みでも注目されている。

 「この10年で、和菓子屋の店舗数は3分の1ほどになっています。厳しい状況ではありますが、だからこそ和菓子文化を次の世代へ残していかなければいけないと思っています。和菓子には日本人の暮らしや文化が詰まっていますから。」そう話すのは、お亀堂4代目社長の森貴比古さんだ。

 和菓子は単なるお菓子ではない。春夏秋冬の移ろいを映し出し、人の成長や人生の節目を彩り、家族や地域をつなぐ存在として受け継がれてきた日本独自の文化でもある。森さんは、その文化を未来へ残すためには、守るだけでなく変化し続けることが必要だと考えている。近年のお亀堂は、地元企業や生産者とのコラボレーションを積極的に進めている。ブラックサンダーあん巻きのような話題性のある商品も、その取り組みの一つだ。

 「地域には魅力的な企業や農産物がたくさんあります。和菓子を通じて、そうした東三河の魅力を発信していきたいんです。」その言葉の通り、お亀堂の商品づくりには地域への眼差しが色濃く映し出されている。和菓子という伝統的な商品を通じて、地域の企業や農家、文化や歴史に新たな光を当てる。そこには和菓子を売るだけではなく、東三河そのものを知ってもらいたいという思いがあようだ。そして、伝統を守るためには変化も必要だと考えている。

 「和菓子を残したいなら、和菓子屋が変わらないといけないと思うんです。SNSもそうですし、異業種とのコラボもそう。昔ながらの良さは大切にしながら、新しいことにも挑戦していかなければ未来にはつながらないと思っています。」地域に根差した老舗だからこそできる挑戦。その一つひとつが、和菓子文化を次代へ受け継ぐための取り組みでもある。

 人口減少や価値観の多様化が進む今、地域に根差した企業の役割も変わりつつある。その中で森さんは、和菓子を一つのコミュニケーションツールとして、人と人、企業と企業、そして地域と未来をつなごうとしている。

 和菓子をつくる。その先に見据えているのは、東三河という地域の魅力そのものだ。お亀堂が挑戦しているのは、老舗和菓子店の生き残りではない。和菓子を通じて地域の価値を再発見し、新たな魅力として発信していくこと。その歩みは、東三河の未来をより面白くする挑戦でもあるのではないだろうか。

お亀堂 本店 店舗内観
▲お亀堂 本店 店舗内観


ブラックサンダーあんまき
▲豊橋駅みやげ No.1 『ブラックサンダーあん巻き』


酒まんじゅう 蓬莱泉 別撰
▲酒まんじゅう 蓬莱泉 別撰


和菓子は、
まだまだ面白くなる。


———大学院で海藻の研究に打ち込み、卒業後は大手食品メーカーで品質保証の仕事に携わる。和菓子屋を継ぐつもりはなかったという森さんは、なぜ故郷へ戻り、老舗和菓子店の4代目となったのか。研究者として培った分析力と、地域への思い。その両方が今のお亀堂の挑戦を支えている。

 

和菓子屋を継ぐつもりはなかった

 幼い頃から海が好きでした。家族で浜名湖へ出かけては魚や海藻を眺めたり、祖母の影響で歴史にも興味を持ったり。興味を持つと、とことん掘り下げる性格だったと思います。高校生の頃から店の手伝いはしていましたが、両親から継承の話をされた記憶はありません。

 大学では生物学を専攻し、大学院では海藻の研究に没頭しました。当時は研究者の道も考えていましたし、和菓子屋を継ぐ未来は想像していませんでした。卒業後は関東の大手食品メーカーへ就職。微生物検査や品質管理など、商品の安全を守る仕事に携わりました。

 転機になったのは、父から掛けられた「そろそろ帰ってくるか?」という一言。それまで一度も継いでほしいと言われたことがなかったので、妙に心に残りました。各地で暮らしたからこそ分かる豊橋の暮らしやすさ。いつかは地元へ戻りたいという思いもありました。そして何より、和菓子業界が厳しい状況に置かれていることへの危機感もあり「それなら自分がやってみよう!」と思ったんです。

伝統を守るために変わる

 入社して感じたのは、和菓子そのものが持つ魅力でした。一方で、いくら素材や製法にこだわっても、背景や想いが届かなければ選ばれる理由にもなりません。だからこそ、和菓子に興味を持ってもらうきっかけが必要でした。その一つがブラックサンダーあん巻きです。

 「和菓子屋がそんなことするの?」と驚かれることもありましたが、その反応も含めて面白い。もの珍しさから手を伸ばし、口にして美味しいと感じてもらう。そこからお亀堂を知り、和菓子にも興味を持ってもらえればいい。コラボ商品は単なる話題づくりではなく、新しいお客様と和菓子をつなぐ入口でもあると思っています。

東三河をもっと面白くしたい

 今、私が一番やりたいことは、和菓子を通じて東三河の魅力を発信することです。この地域には素晴らしい農産物があります。魅力的な企業もあります。歴史や文化など、まだまだ知られていない魅力もたくさんあるんです。

 だからこそ、地域の企業や生産者の皆さんと一緒に新しい商品を作りたい。和菓子をきっかけに東三河を知ってもらいたい。相手を思いやる気持ちを「形」にする和菓子は、人と人をつなぐ文化です。

 お亀堂だけではなく、地域全体が元気になるような取り組みを続けていきたいです。和菓子を未来へ残すこと。そして東三河をもっともっと面白くすること。その挑戦は、まだ始まったばかりなんです。




お亀堂 本店 店舗外観


お亀堂 ロゴ


株式会社 お亀堂
豊橋市南小池町164番地
TEL:0532-45-7840
お亀堂WEBサイト


もり・たかひこ さん プロフィール
1985年、豊橋生まれ。豊橋市立南部中学校、桜丘高等学校を卒業後、大学・大学院で生物学を学び、神戸大学理学研究科生物学専攻を修了。大学院では海藻の研究に従事し、日本各地で調査を行う。修了後は、関東の大手食品メーカーへ入社。微生物検査などによる食品の安全性や品質管理を担う品質保証部門で経験を積む。2013年、株式会社お亀堂へ入社。製造、販売、店舗運営などを学び、2023年、代表取締役に就任。現在も、和菓子文化の継承と地域企業・生産者との連携を通じて、東三河の魅力を発信する取り組みを進めている。