中学から4年連続で見た「日本一」の景色 インハイ陸上女子4×400mリレーV

 笑って終わることが出来ましたー。全国高校総体(インターハイ)陸上競技の女子4×400m(マイル)リレーで中京大中京が3分39秒16で初優勝した。決勝で3走を務め、全国制覇への道筋をつくったのが高豊中出身の布施一葉さん(3年)=富士見台。今大会は3種目に出場。個人の200mと連覇のかかった4×100mリレーでは辛酸をなめたが、最終日のマイル決勝では「最後のピース」として登場。期待通りの加速走でトップに立ち、逆転Vに貢献した。「ラストレースで悔しさを晴らすことができました」。中学3年時に200mで日本一を経験し、思いとバトンをつないで4年連続で全国の頂点に立った。陸上への“好き度”が上昇するたびに輝きが増す。

中京大中京高3年 布施一葉さん(高豊中出身)

女子マイルリレーの3走を担当し、初優勝に貢献した布施一葉さん

女子マイルリレーの3走を担当し、初優勝に貢献した布施一葉さん

 インハイ陸上は7月30日~8月5日、滋賀・平和堂HATOスタジアムで開催された。布施さんは東海4位突破の200mと大会3連覇を狙う4×100mリレーに軸足を置き、マイルリレーは今季1度も走っていないため、メンバー入りは流動的だった。

 200mの目標は「23秒台でメダル獲得」。予選24秒35で組2着通過。続く準決勝は24秒45で組5着。翌日のファイナルを逃した。

 「予選でシーズンベストが出たので、このまま乗っていけるかなと思ったのですが…。コンディションも良かっし、自己ベストを狙いたかった。気持ちの弱さと覚悟が足りなかったのだと思います」

 4×100mリレーは3連覇の懸かる注目種目。布施さん自身も1年時からバトンをつなぎ、思い入れが強い。戦前ランキングは市立柏(千葉)に続いて2位。予選は45秒93で組1着。全体でも2着通過だったが、予選タイム上位8校による決勝3組では45秒87をマークしたものの、4位に沈みメダルに届かなかった。

 3年生は3走の布施さん1人。「1、2走が経験の浅い1年生なので、私のところで貯金をつくりたかったのですが、2ー3走中継でバトンがうまく繋がらず、アンカーに勢いを送ることができなかった。電光掲示板に順位とタイムが出たときは愕然としました。連覇を逃した、メダルに届かなかったという悔しさと同時に、メンバー唯一の3年生として、昨年まで一緒に戦ってくれた先輩方に恩返しできなかったこと。後輩たちに勝利のバトンをつなげなかったことなど、失意呆然で気持ちの整理がつかなかった。レース後に中学時代の恩師に声をかけていただいたのですが、感情が抑え切れず涙が止まりませんでした」

最後の「最強ピース」

 残すは4×400mリレー。1、2年とメンバー入りしたが、今回は微妙な立場だった。理由は2つ。1つは下級生の台頭で今季1度もマイルを走っていない。そしてもう1つは、違うメンバーで結果を残していること。圧巻だったのは東海総体だ。決勝で3分40秒07の大会新をマークするとともに、今季の高校ランキング1位に躍り出た。さらに言えば、今インハイ予選は東海メンバーを少しテコ入れして3分45秒41。隙のない布陣だった。それでも指揮官は「(決勝は)最強メンバーで記録を狙いにいく」と3年生主体のオーダーに組み替え、3走に布施さんを起用した。予選タイムの上位8校が顔をそろえる決勝3組は事実上の頂上決戦。1走今枝選手、2走粉川選手(ともに3年)と好位置をキープし、布施さんにバトンがわたった段階で3番手。前半の1次加速で前との距離を確認すると、第3コーナーで相洋(神奈川)を抜いた。ホームストレートでさらに回転数を上げ、残り80mで佐久長聖(長野)からトップを奪った。「アンカーに首位でバトンが渡ったとき、勝利を確信しました」。予選を6秒以上縮める快勝だった。優勝を決めた瞬間は「役割を果たすことができ、喜びより安堵(ど)の方が大きかったですね」。そして「信用して使ってくださった先生に感謝です」。笑顔と涙が交錯する“5本立て”のトラック劇場だった。チームメイトと部旗を掲げ「最終章の1本でやってきたことが報われたような気がします」

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様々な経験値を肥やしに

 これまでの競技生活を振り返り「家族だったり中高の先生やチームメイトだったりと、いろんな人の支えがエネルギーの源。目標を達成したときも、力を出せずナーバスになったときも、いつもだれかが気遣ってくれた。そのお陰で色んな景色を見ることが出来ました」と、うれしそうに話す。

 自宅通学で片道1時間以上かかるが、併設する中京大陸上競技部と連携した短距離ブロックの環境が良かった。毎年多くの快速スプリンターが門を叩き、質の高い練習でタイムと向き合う。布施さんには中学時の200m優勝という「名刺」があったが、「先輩やOGの方はもっとすごい戦歴を持っていたし、後輩も全国トップレベル。だから甘えや油断は許されず、つねに緊張感の中で自分と戦ってきました。極端に言えば、生活時間の7割以上は陸上のことを考えています」。クラスでも等身大でいることができた。野球でプロを目指す選手や世界を視野に活躍するスイマーなど、周りを見渡せば次世代の逸材ばかり。日本代表や海外挑戦が当たり前のような世界に身を置き、主要大会でメダルを獲得しても話題に上がることはない。教室の中ではアスリートの顔から普通の高校生に戻ることができた。「みんな同じような夢や悩みを持っているんです」。だから素の自分が出せた。

目標とされる選手に

 日本選手権を経験し、昨年4月は日本代表としてサウジアラビアであったU18アジア陸上競技選手権女子200mに出場。挫折と栄光を成長剤に進化を続けてきた。心残りは「夏の東海選手権で1年生のときに出した自己ベスト(24秒01、高1区分歴代3位)を切れなかったことですね。まだ“自分超え”が出来ていません」。1番の思い出は「やはりリレーで3度表彰台の1番上に立てたことです。個人ではなくチームの仲間と金色のメダルを取れたことがうれしかった。競技を続けていく上で、出会いや恩師の教えは戦績以上に大きな財産になってくると思う。感謝の気持ちを持ってこれからも走り続けたい」

2024年に行われたU18陸上で快走する布施さん

2024年に行われたU18陸上で快走する布施さん

 次戦は10月3、4日に静岡・草薙陸上競技場で開催されるU20日本陸上選手権。「コンディションを整え、23秒台を出して自己ベストを更新したいですね」。卒業後は大学に進み、新たな可能性を追い続ける。

 未来設計を聞くと、目標の大会やタイムより先に「次に続く人たちに感動を与えられるような選手になりたい。私自身も先輩にあこがれ、刺激を受けながら陸上が好きになっていった。もっともっと走力を磨き、目標とされる選手になりたいですね」

【カメラが見たブレない強さ】

 小学時代から陸上クラブに通い、当時は突出した戦績はなく、全国大会など遠い存在だった。中学でピッチとフォームが安定し、2年の春先からメキメキ頭角を現した。200mで全国制覇を達成すると、一躍脚光を浴びた。だが、その進化のスピードに本人が付いていけず、気持ちが空回りする時期もあった。

 「厳しい環境で自分を磨きたい」と名門私学を選んだ。上には上がいるし、甘さや弱さを知ることもできた。応援を力に一歩づつ前へ。高校最高峰のステージで輝きを放ち、日の丸を付けて海外レースにも参戦した。肉体的な強さだけではなく、心の強さとタフな人間力も備わった。意見や思いを自分の言葉でハキハキと答え、信念にブレがない。「あの内向的だった子が…」。心持ち一つでこうも変わるのかと。

 かけっこが好きだった女の子が数年後「4年連続日本一」の快挙達成。一途に真面目に走り続けたら、数え切れないほどの“ご褒美”を手に入れた。