家族との時間を大切に思う気持ちが、新しい人生の扉を開いた。
鈴木新聞店(株式会社SNP)
代表取締役 鈴木康雄さん
建築職人から新聞販売店へ。地域に寄り添う、新たな挑戦。
私は新聞販売店の生まれでも育ちでもありません。以前は建築の外装工事、いわゆる外壁の施工業として独立し、十年以上仕事を続けていました。ありがたいことに仕事は順調で、従業員にも恵まれ、「次は別の事業にも挑戦してみようか」と考えていたくらいです。そんなある日、「新聞販売店をやってみませんか」という話が舞い込みました。正直なところ、最初は詐欺だと思いましたね(笑)。突然訪ねてきた人が置いていった立派な名刺を見ても、「今どき名刺なんて誰でも作れる」と疑っていました。
ところが、その話に一番興味を示したのは妻でした。「新聞屋さんなら、子どもたちが学校から帰ってきた時に家にいてあげられる」。その一言が、私の考えを少しずつ変えていきました。さらに義父からも背中を押され、「一度話だけでも聞いてみよう」と中日新聞社の担当者と会うことに。それでも最後まで半信半疑でしたが、何度も話を重ねるうちに覚悟が固まり、建築業からまったく異なる世界へ飛び込む決断をしました。
職人から経営者へ
新聞販売店になるためには、運営のノウハウを学ぶための研修が1年間設けられていました。これが本当に大変(汗)。朝一時、二時には起きて仕事を始め、睡眠時間は1日三時間ほど。単身赴任だったので掃除や洗濯も自分でしていました。名古屋の店舗では配達、営業の基本を学び、その後は豊田の販売店で店舗運営やシステム管理を学びました。それまでパソコンをほとんど触ったことがなかった私にとって、毎日レポートを作成して提出することも一苦労。普通なら二、三年かけて学ぶ内容を一年間で詰め込んだような密度の高い研修でしたね。
建築の仕事では職人として現場を引っ張ってきましたが、新聞販売店では従業員との向き合い方が何より大切でした。研修で繰り返し教えられたのは、「小さな変化に気づくこと」「積極的に声を掛けること」。実際に店を任されてから、その意味を何度も実感しました。新聞販売店は配布スタッフをはじめとする従業員の皆さんがいて初めて成り立つ仕事です。だからこそ、普段の何気ない会話や表情の変化を見逃さないよう、今でも常にアンテナを張っています。


地域とともに歩む仕事
新聞販売店は、毎日地域へ新聞を届ける仕事です。そのため、地域の皆さんとのつながりも欠かせません。ただ実は、人前に出たり地域活動をしたりするのは少し苦手なんです(笑)。そんな時は妻が地域との橋渡し役になってくれています。家族の支えがあったからこそ、ここまで続けてこられたと感じています。
新聞業界は、以前に比べて購読世帯が減り、決して追い風とは言えない状況です。販売店が独自に商品である新聞自体に手を加えることはできませんし、若い世代へ新聞の魅力を伝える難しさも感じています。私自身も、昔は新聞を読む習慣がなく、見るのはテレビ欄くらいでした。それでも新聞を開けば自然と見出しが目に入り、社会の出来事や地域の話題を知ることができます。情報があふれる時代だからこそ、信頼できる情報を届ける新聞の価値は、まだまだあると信じています。
新聞販売店を始めたきっかけは「子どもとの時間を増やしたい」という家族の願いでした。あれから十年以上が経ちましたが、家族や従業員、地域の皆さんに支えられながら今日まで歩んでくることができました。これからも地域に寄り添い、一軒一軒へ確かな情報を届け続けることが、私たち鈴木新聞店の役割だと思っています。
