還暦レーサー風を切って疾走 自転車レーシングチーム天狗党 奈良正一さん

還暦レーサー風を切って疾走 自転車レーシングチーム天狗党 奈良正一さん
全日本自転車選手権のマスターズ60で1位フィニッシュ。拳を突き上げ喜ぶ奈良正一さん

 まだまだ歳を取ってる場合じゃないー。自転車レーシングチーム・天狗党に所属する奈良正一さん(59)=豊橋市芦原町=が先月、静岡県伊豆市の日本サイクルスポーツセンターで行われた全日本自転車競技選手権個人ロードレースのマスターズ60部門で優勝を飾った。自転車を愛するシニアレーサーが集結する国内最高峰の競技会。この大会に照準を合わせて半年ほど前からトレーニングに負荷を掛け、肉体改造してきた。「表彰台のてっぺんは気持ち良かった」。褐色の肌から笑顔がこぼれる。

全日本自転車選手権/個人ロードマスターズV

前哨戦で完敗 雪辱果たす

 個人ロードレースは男女別にマスターズ、エリート、U23などのカテゴリーがあり、奈良さんが参戦したマスターズ60(MM60ー69)はキャリアと戦績を積んだ25選手で争われた。アップダウンの激しい1周8kmの坂道を4周する32kmコース。マスターズ50との同時スタート。他選手を空気抵抗とペースメーカーに先頭集団につくと、1周目で部門1位通過。2周目も回転数を落とさず首位をキープ。ラスト4周目に入ると追い込み型の選手が猛チャージを仕掛けたが、4秒差で逃げ切り、全日本チャンピオンに輝いた。「30秒以上あった差があっという間に縮まり、後ろに付かれたときは刺されると思った。最後はアドレナリン全開で、何かに追われているように逃げました」

 雪辱を果たす会心Vだった。前哨戦となる4月の静岡修善寺チャレンジロード。全日本にも出場する実力者が揃った腕試し大会では3位に甘んじた。トップとは1分以上の開きがあった。「本番(全日本)まで2カ月を切っていたので焦りました。そこからは堅忍不抜の生活ですよ」。悲願達成に「流した汗は裏切らないことを、この歳になって改めて感じた。チャレンジに年齢制限はありません」と、同世代に語りかけるように話す。

表彰を受ける奈良さん

表彰を受ける奈良さん

原点は高2の自転車旅

 神奈川県出身の奈良さんが自転車に出会ったのは高校2年のとき。夏休みを利用して友人2人と四国~九州を35日間かけて横断。サッカー部で鍛えた脚力でいくつもの峠を越え、充実感いっぱいの冒険だった。東三河に居を移し、社会人になって興味を持ったのがマウンテンバイク。20~30代のころは仲間とチームを組んでモトクロス競技会に出場。職場のトヨタ自動車(株)田原工場から近い蔵王山をトレーニング拠点に、寝る間を惜しんで坂道を駆け上がった。

 このころから闘争本能がアップデート。マウンテンから競技用のロードバイクに乗り替えると、40歳を前に、自転車競技の老舗チーム天狗党に入会した。同チームには元プロ選手や高校生、70代のベテランなど約50人が在籍。短距離疾走型のスプリンター、起伏を得意とするパンチャー、長距離耐久型のルーラーと、それぞれが得意のフィールドで技術を高めている。奈良さん脚質はアップダウン攻略やスピードの駆け引きを奥義とするパンチャー職人。

 週末は東三河をフィールドに1日150km。季節を肌で感じながら「出会いやまだ見ぬ原風景を探すのが楽しみ」と銀輪を走らせる。年に何度か自ら地獄トレーニングを課し、この秋は長野県で1日312km走破の「修行の旅」を計画している。競技会は主要4大会(全日本、北海道ニセコ、鈴鹿、沖縄)のほか全国各地で開かれ、今でも年間10戦以上”発動”し、身体が悲鳴をあげるまで追い込む。自宅にはメダルやトロフィー、記念パネルなどが所狭しと並べられ、中でも一番の勲章は、8年前の鈴鹿ロード2017マスターズ50で順位とポイントの2冠を獲得したこと。「この優勝で第2の導火線に火がつきました」

鈴鹿ロードで2冠を達成したときのウエアと金メダル

鈴鹿ロードで2冠を達成したときのウエアと金メダル

うまいビールを飲みたい

 レースは過酷だし、フィニッシュと同時に倒れ込んで過呼吸になることもある。挑戦し続ける源泉はまだ見ぬ達成感か、それとも少年の心か。本音は意外だった。「うまいビールを飲みたいんですよ。レース終盤の苦しいときなど、そればかり考えているかな」と笑う。各地を転戦して飲み仲間もできた。大会を支える人の優しさにも触れてきた。そして何より「家族の理解と支えがなければ、ここまで夢中になれなかった。何度も表彰を受けましたが、それより価値の高い感謝状を贈りたいですね」

 今年9月に愛媛県で開催される日本スポーツマスターズに向け準備に入った。目標は2027年のワールドマスターズ(国際大会)で海外選手とタイムを競うこと。人車一体の銀輪人生にブレーキはついていないようだ。